ACC体験記 FILE019=タッくん
<原発部位>左顎下腺(腺様嚢胞癌)
<STAGE>Ⅳ T3N2bM0
<ニックネーム>タッくん
<性別>男性
<罹患年齢>50歳
<住まい>愛知県(出身地:福井県)
<治療>2015.9.4 左顎下腺および周辺部摘出手術
<病院>名古屋第一赤十字病院
<現状>
2016.3.7のPET検査にてリンパ節転移の疑いを示唆されたが、その後の経過観察で癌の可能性は低いとの診断。
また、2017.2.13 のCT造影検査にて肺に4mm(1ヵ所)陰影が見つかり、口腔外科主治医および呼吸器内科医師は、肺転移の可能性が高いと診断。
ただ、サイズが小さいため、3カ月ごとのCT造影検査で経過を観察し、時期をみて検査や手術を判断していく予定。
<体験記>
『発覚から手術へ』
明確な時期の記憶は定かではないが、2012年頃からアゴの左下内側に時々うずくような痛みが出たため、その後3年間ぐらいの間に、かかりつけの内科や歯科医、人間ドックなどで患部の事を相談し診てもらいましたが、どの医療機関においても「異常は認められない、経過を見て何かあればまた来て下さい」との診断ばかりでした。 しかし、その後も痛みが続いた上に、少し固い腫れも感じられるようになったため、2015年の8月1日に科を変えて別の皮膚科の病院を受診。その病院での診察で「皮膚の病気ではないが、すぐに精密検査を受けた方が良い」と勧められ、現在通院している名古屋第一赤十字病院の口腔外科への紹介状を書いて頂きました。
即日予約を入れ、5日後の8月6日が初診日でした。最初の診察を受けた時の主治医の顔が今でも思い出されます。先生が患部を触診した後、真剣な顔つきで「この後まだ時間大丈夫ですか?準備しますので、組織検査をしましょう」と言い、しばらく待たされた後、診察室を変えて、注射器で細胞組織を採取(穿刺吸引細胞診)されました。その注射は今まで感じた事のないくらいの痛さだった事を覚えています。その日は、他にもCT造影や血液検査など1日がかりで検査を行い、1週間後の再診予約をして帰宅しました。
8月13日の再診日、私は癌の宣告を受けました。6日の初診時から嫌な予感を感じていたが、実際の宣告は、自分の予想を遥かに超えた重さだったのか、その事実を冷静に受け入れる事は全くできませんでした。何とかその日は、感情を棚上げにして、今後の治療方針やスケジュールを聞き、入院や手術の日程を決めて帰宅しました。
そして、8月21日より職場を休職し、入院準備や手術前の検査をしながら徐々に現実を受け入れ、手術前日の9月3日に入院しました。
『手術から退院まで』
2015年9月4日 手術(左頸部郭清、下頸骨辺縁切除、顎下腺悪性腫瘍手術)
手術概要:左顎下腺癌が下顎部に近接しているため、下顎下縁から鎖骨上までの範囲で、領域のリンパ節を周囲組織として郭清し、安全領域をつけ下顎下縁の腫瘍を切除。
術前に説明を受けていましたが、この手術で舌半分と左顎下の神経等を失いました。手術後全身麻酔から覚めてしばらく経っても、舌が思うように動かなかったため、会話は妻に用意してもらった紙とペンでの筆談しかできませんでした。
私は、妻と一人娘(この時5歳)の3人家族です。術後当初、このまま回復せず、もう娘とちゃんと話せる日は訪れないのではないかと心配ばかりしていましたが、少しずつ回復して会話ができるようになった時には、話せることのありがたみをしみじみ感じました。
また術後、半分の舌神経切除の影響で全ての味覚を失い、食べ物の味が全くしなくなったため何も飲みこめなくなり、1週間点滴だけで生活しました。術後10日して食べた大好物の桃の味が本当に美味しくて涙がこぼれました。舌半分だけの味覚ですが、もう一度生まれてきて初めて味わったような感動を受けました。
しばらくして、戻るべき感覚や運動機能はほぼ予定通り戻ったのですが、この時から損失した機能による喋りにくさや食事に関する機能低下、舌噛みなどと共に生活していく事になりました。それでも娘や妻と不自由なくしゃべり、美味しい物を食べれる事に本当に感謝して日々生活しています。
病理組織結果 STAGE:Ⅳ (T3N2bM0)
病理組織の診断説明:約22mm顎下腺癌。リンパ節への転移は認められないが、直接浸潤があったため、ステージⅣ。下顎骨や広頸筋、舌神経への腫瘍浸潤は認められなかった。
術後しばらくして、病理検査の結果が主治医から伝えられました。手術前にはSTAGEⅡと診断されていたが、リンパ節への浸潤があったためSTAGEⅣに改められた事に妻も私も少なからずショックを受けましたが、その事による緊急性はないとの主治医からの返答で二人とも気持ちを落ち着かせる事ができました。
手術前の検診時から主治医に言われていた事が、腺様嚢胞癌は肺転移の症例が多く見受けられ、その場合の治療方法は現在、放射線治療も化学療法も効果が認められていないため、今回行ったような手術での治療となるだろうとの事も改めて伝えられました。
食事や発声のリハビリを経て、予定より少し長い1ヶ月ほどの入院で退院する事になりました。退院後の治療方針は、2週間に1度の検診と3ヶ月に1度のCT造影、年に1度のPETを行って経過観察していくと伝えられました。
『退院後から現在』
退院後、体力の回復期間を少し取り、入院から2ヶ月後、職場への復帰をしました。ただ、会話能力や食事等の生活習慣が全く変わったため、役職を辞退し労働条件の緩和を職場にお願いしました。人前で話す職業のため、隠しようのない手術痕(顎から首)について気にされる前に自分から事情を話し、スムーズな関係を作るように心がけていきました。そのためか、復帰してペースを掴むのに苦労したような記憶はありません。
経過良好と思われていた2016年3月に行ったPET検査で、右頸部リンパ節に強い反応が見られ転移の疑いが認められましたが、その後の経過観察で一時的な過剰反応で癌の可能性は低いと診断されました。
ただ、2017年2月のCT造影で左肺に1ヶ所4mmの影が認められ、その後のPETでは写りませんでしたが、主治医、呼吸器内科の医師共に転移の疑いは強いと診断。今現在は4mmと小さく検査および手術をすべき時期ではないため、経過を観察し状況をみて必要な処置をしていくと伝えられています。
私は図々しい人間で、『娘が独り立ちするまでは生きていたい』と思っています。これからの医療技術の発展を信じつつ、強い気持ちを持って癌に負けないで生きていきます。
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